第18回

（奈良県奈良市）

レジャーホテルと一般ホテルの分岐点

8月末に興味深いニュースリリースが届いた。USEN-NEXT GROUPの㈱アルメックスが、ビジネスホテル部門とレジャーホテル部門の垣根を取り払ったITシステム部を発足させたという内容だ。㈱アルメックスといえば本誌の読者であればご存じであろうが、レジャーホテルをはじめ一般ホテルのシステム導入などで高名な会社だ。今後、レジャーホテルと一般ホテルの垣根がますます取り払われていくのであろう象徴的なニュースであった。

筆者は本誌で連載をスタートさせた約4年前より、一般ホテルがレジャーホテルから学ぶべきゲストサービスは多く宿泊業としての真価を見つめる必要がある、すなわち業際化について一貫して述べてきた。そのようななか、奈良市に驚きのホテルが誕生したという情報を耳にして奈良へ向かった。2018年7月30日にリニューアルオープンした「HOTEL Mai Sakura」、JR奈良駅から徒歩5分ほどの立地だ。従前はビジネスホテルであり新法ホテルとして開業した。

インバウンド需要の高まりと共に、ホテル業界では、ラグジュアリーからビジネスホテル、カプセルホテルに至るまで“ホテルのご当地フィーチャー”といった傾向は強まっている。その点で、HOTEL Mai Sakuraが古都をイメージするデザインという点は想定の範囲内であった。ロビーから客室まで随所で雅に触れることができる。一方で驚いたのは、おおよそレジャーホテルには見られない施設、設備のラインナップだ。業界の既成概念を超えた時、宿泊業としての価値が問われるのも“レジャーホテルのいま”なのだろう。

エントランスで迎えてくれるのは「桜書店」。なんとブックショップ＆ラウンジだ。食、旅、美や洋書など幅広いジャンルの本が並ぶ。筆者は本誌4月号「非日常への原点回帰！」のインタビュー記事で、「差別化としての知的欲求へのアプローチ」として、本などの知的欲求を充足させるアイテム等の提案をしたが、まるで具現化されたような感慨深さを感じた。書店の奥には寝転べる畳スペースとコミックコーナー。子供がはしゃげそうなエリアだ。その他、カラオケやゲームコーナー等のアミューズメントスポットも併設され驚愕だ。

奈良公園や東大寺といった有名スポットへも好アクセス、 新法ホテルで出入り自由ということもあり観光での利用も多く、ビジネス向けの客室も用意されているという。取材に迎えてくれた㈱GHP 代表取締役兼CEOの宮田啓光氏によると、「奈良という立地もあって訪日外国人旅行者の利用も多く、カップルズ以外の需要が3割を超える」という。回転率に注視せず、フリータイム等の時間拘束に余裕を持たせている点も一般利用の場合に使い勝手が良いのだろう。

まさにレジャーホテルと一般ホテルの分岐点がいまここにある。

HOTEL Mai Sakura
奈良県奈良市三条本町7-21
TEL.0742-20-7700

ホテル評論家　瀧澤 信秋氏
日本で数少ない宿泊者・利用者目線のホテル評論家として、テレビやラジオへの出演、雑誌・新聞連載など、多方面で活躍。著書に「365日365ホテル 上」（マガジンハウス）、「ホテルに騙されるな！ プロが教える絶対失敗しない選び方」（光文社新書）など
http://www.takizawa-nobuaki.net/hotel/